遺言書はいつでも作ることができるわけではありません。健康であれば問題のない遺言書作成も、認知症になってしまうと話は変わります。
認知症患者は自分で判断ができない状態になっているため、正確な遺言書を作れない、作ったとしてもその遺言書は法的効力を持ちません。そして実際に、認知症が原因の相続トラブルも数多くあるようです。
ここでは、認知症が原因で起こってしまった相続や遺言トラブルの事例とともに、その対策方法についてご紹介します。
■なぜ認知症になると遺言書が作れないのか
医師から明確に「認知症である」という診断を受けた時、その人が行なう契約などはすべて無効となります。認知症になると正しい判断ができなくなる、というのがその理由です。
認知症になってから「相続に関する手続きをしたい」と思っても、手遅れになってしまうということです。
自分が認知症になる、と考えながら行動できる人は多くありません。そのため、自分の心身に異常が出るまで相続のことまで考えないのが一般的です。しかし、もしあなたに多額の財産があるなら、認知症になる前に相続対策を行なってください。
また、認知症になると、相続だけではなく不動産売買契約、生命保険契約、生前贈与、養子縁組なども無効になります。つまり、遺言だけではなく生前からの相続税対策もできなくなってしまうのです。
・法定後見制度
認知症になった後、これら契約に関する手続きを行なうために成年後見人を選出することができます。主に預金の引き出しや、本人の利益に関することのために利用される制度です。
法定後見制度で選出された後見人がいたとしても、相続税対策が出来るわけではありません。なぜなら、相続税対策は「いかにして資産を減らして相続税を減らすのか」というのが本領です。
相続税対策を行なうと資産が目減りするのですから、これは「本人の利益に関すること」と相反しますよね。
認知症になった後は、結局どのようにしても相続税対策に着手できない、ということになります。
・認知症でも遺言が認められた例もある
ただし、認知症でも遺言が認められた判例があります。この時の特徴としては、認知症がまだ浅い段階だったこと、看護師の日報から本人と会話ができていたことが立証されたのがポイントです。
しかしこれは稀な例ですので、どんな場合でも認知症と診断される前に遺言を残すのが適切でしょう。
■よくある認知症と相続のトラブル事例
認知症と遺言に関するトラブルはまま見られることです。
例えば後見人の子が、認知症の親をそそのかして遺言書を書かせているようなパターン。この時、親は認知症ですからこの遺言書は無効となるはずです。しかしそのことを他の法定相続人が知らない場合、やけに後見人優位な遺言を受け入れてしまうこともあるでしょう。
認知症になってからの遺言が無効と知っている場合には、「後見人が無理やり書かせたんだろう!」と争いに発展。すると、「自分が面倒を見ていたのだから、多く遺産を受けて当たり前」と後見人は主張するでしょう。
そこで「法定相続人は均等に遺産を受け取るべき」と、後見人以外の法定相続人が主張すると相続争いに発展します。
■相続トラブルにならない対策法は?
このような相続に関するトラブルを避けるためには、やはり認知症になる前に手を打つしかありません。認知症になってから遺言書を作成した場合、また認知症の段階が浅い場合には「本人の意志がありました」という証拠を残さなければなりません。
どちらにしても、相続トラブルを避ける最も賢い方法が「相続に関する法律のプロ」に相続対策を依頼することです。財産目録からすべての財産を把握してもらい、遺言書の作成を手伝ってもらいましょう。
もし、まだ遺言書を作成していないのに認知症が発覚してしまった時には、すぐに弁護士に相談してください。認知症の度合いが浅い段階で、本人と会話がきちんと出来る状態であれば、公正証書遺言を残せる可能性があります。
そのためには、本人が会話できたことの証明と、認知症の段階が浅いことを証明できなければいけません。また、念の為公正証書の内容も簡潔にするよう指示されるでしょう。
被相続人が認知症で公正証書遺言が無効になった判例では、「公正証書遺言の内容が複雑だった」にもかかわらず、証書作成の際、公証人に何をいわれても本人が「はい」としか言えなかったため「判断能力なし」とされています。
一方で、先程例に挙げた遺言が認められたパターンでは、公正証書遺言の中身が簡潔だったことが認められた理由のひとつとなっています。
例えこれらの知識を持っていたとしても、「法律家のお墨付き」がなければ手続きや証拠集めに難航してしまうことが考えれます。認知症が発覚した場合には、弁護士や行政書士に相続について相談することをおすすめします。
■まとめ
認知症による相続トラブル件数はとても多く、「認知症になる前に手続きをしておけばよかった」と後悔する人も少なくありません。
相続税が大きくかかるほどの財産を持っているのなら、認知症になる前に今すぐ弁護士や行政書士、司法書士といった法律のプロにご相談ください。お問い合わせはこちら(http://yuigon.jp/)まで。